もうすぐ9月、アートの収穫祭です。

プログラムノート

「3.11」映像作品集について

経緯
 2011年の初夏、マレーシアのアーティスト、シュウワイから連絡があった。
11月の「第2回クアラルンプール実験映画祭 (KLEX)」に、日本から新しい映
像作品プログラムを出品してくれないかというものだった。シュウワイをはじめ
マレーシアの作家とは2009年の「日本・マレーシア映像交流展」からの繋がりが
あったために、われわれのSVP2(Spread Videart Project2)が依頼された。
 その時点での最新作品を集めて、プログラムを組むことも出来たのだが、3月
11日以降、「映像表現に何が出来るのか」を考えていた時期でもあり、既存の映
像作品を集めることに躊躇した。
 周知の通り、3月11日以降には夥しい映像がメディアに現れ、インターネットを
巡った。そのどれもが「記録」であったことは間違いない。優先されるべきはま
ず「記録」であり、そこで何が起こり、どのような事態になってしまったのかが
記録された。映像の持つ即時性は記録と発信を同時に可能にし、あたかもそれを
体験しているかのように、誰もが事の重大さを痛感した。その「記録」に手を加
えて私見を差し挟むことは、被災者への配慮を欠くように思われた。このような
状況は「9.11」の時にもあった。東京ビデオフェスティバルの審査委員をしてい
た当時、翌年のフェスティバルにはたくさんの「9.11」関連の作品が集まるに違
いないと思っていた。しかし、実際は数作品が応募されたにとどまった。映像表
現どころではない大きな事件だったのだ。
 しかし、映像表現が持つ意味は、眼前の事象を切り取り発信することだけだ
ろうか? 映像の「作者」はこうした事態に対して意味を持たないのだろうか? 
映像が指し示すものは「現実の断片」である。それらが選択され構成され「意
味」を付加される。指し示すだけではなく、抽象し象徴する。これから起こる何
かを予見させる。
 今回の日本プログラムを構成するにあたっては、個人映像作家たちに「3.11」
の「解釈」と「表現」を呼びかけた。同時に「あなたは何をしていたのか?」
「映像の作り手は何をするべきだと考えるか?」といった素朴な問でもあった。
大災害を表現するなど不遜なことと思われるかもしれない。しかし、震災の当事
者ではなくとも、少なからず誰もが精神的なダメージを受けたはずだ。それらを
表現することも「3.11」の意味だと思った。
 2011年11月23日から27日まで、KLEXは開催され「3.11」プログラムは26日に
公開された。この時に、マレーシアの作家にも「3.11」作品の制作を呼びかけ、
知人の作家たちが制作を約束してくれた。帰国後は学生たちにも制作を呼びかけ
ている。今後は各地で上映活動をしながら、参加者を募りたいと思っている。
「3.11」は増殖していく作品集でありたいと願っている。(SVP2代表 佐藤博昭)

企画者略歴

佐藤博昭(さとう ひろあき)
教員・映像作家
ビデオアートの自主上映組織SVP2代表として、これまでに16回の自主上映イベ
ントを行い、2009年には「日本・マレーシアビデオ交流展」を主催・運営しマレ
ーシアのビデオ作家5名を招いた。2010年7月には日本から映像作家6名と共に、
マレーシア・ナショナル・アートギャラリーでの作品上映や3つの大学でレクチ
ャーを行った。
1995年からは農業情報チャンネルを通じて、地域ビデオリポーター養成を行い、
市民ビデオの普及に努めている。また、東京、長野、鳥取など各地で映像制作ワ
ークショップなどを開催している。2009年からは新宿区で「しんじゅくアートプ
ロジェクト」に参加し多ルーツの子ども達と映像制作ワークショップを行なって
いる。
「映像制作は、楽器をマスターするようなこと」を信条に、個人制作のビデオ表
現を支援している。2000年からは東京ビデオフェスティバルの審査委員を務め、
現在はNPO法人「市民がつくるTVF」理事。2006年より日本映像学会理事。
日本大学芸術学部映画学科、武蔵大学社会学部、東京工芸大学芸術学部、日本工
学院専門学校非常勤講師。

映像作品(抜粋)
『方舟〜幾つもの赤い旗のもとに〜 Ark under the Red
『ありがとう
『a few minutes later』 2011年 3分11秒 

著書
単著
『戦うビデオカメラ』(フィルムアート社)2008年
共編著(抜粋)
『CINE LESSON 14 スーパー・アヴァンギャルド映像術』(フィルムアート社)2002年
『アートという戦場』(フィルムアート社)2005年
『ドキュメンタリーの挑戦』『日本映画叢書第5巻』(森話社)2006年
『ドキュメンタリー
『シリーズ 日本のドキュメンタリー』全5巻(岩波書店)2009年〜2010年